フェルミ推定に挑戦

フェルミ推定」とは、「そんなもんどうやって計算するねんwwwわかるかアホwww」っていうような数を、えいやっ!と力づくで見積もってしまう技である。「ちゃんとしたどんぶり勘定」と言ってもいい。仮説設定の力、糸口を探す力、論理構成力、あきらめずに最後まで計算してしまう力、等々を鍛えるにはうってつけの素材である。就活の面接でも問われることがよくあるとも聞く。後述するような(一見すると)無茶難題を「3分で答えよ」なーんてふっかけられるんだそうだ。

基本的には、「その数字は何桁か」がわかることが目標である。宇宙物理学者の得意分野である。テストの点数など60点だろうが99点だろうが10点だろうが、2桁なので同じなのである(笑)まぁ、それは冗談ではあるが、推定の結果は、「正解」(あるとすれば、だが…)のプラスマイナス1桁に入っているくらいの精度は欲しいところだ。

僕が学生時代を過ごした某宇宙物理学教室には、これが上手な人が多かった。かっこいいなーと憧れたものだ。そもそもこの「フェルミ」の名は、大科学者エンリコ・フェルミが得意としていたという伝説に由来する。僕も一応、科学者を名乗っているので、モノにしたい欲もある。

で、最近、自分自身の脳の修業と、(現実的な必要性として)「観光のための数的推理」のネタ作りとを兼ねて、少しずつ取り組もう!と思いたち、ある書籍を読んだ(この本自体はあんまり面白くなかったので書評は書いていない)ところ、例題が載っていたので試しにやってみた。もちろん(と言っていいのかどうかわからないが)、3分では全くできないけれど。

シカゴにピアノ調律師は何人いるか?

フェルミ推定の代名詞とも言うべき、超有名な問題であるらしい。
糸口になる仮定として、「需要と供給がバランスしている」とする。そうすると、需要つまり調律が必要なピアノの数と、供給つまり調律師全員でこなせる台数が等しいことになる。

  1. 大阪市と同じ位と考え、人口200万人と仮定
  2. 世帯数は、都会で一人暮らしも多いだろうから、平均して人口の半分と仮定。100万世帯
  3. そのうち10軒中1軒にピアノがあるとして、ピアノは10万台ぐらい。後の計算を簡単にするため7.2万台としておく。「10軒中1軒」もちょっと多いような気もするし(^^;
  4. ピアノ調律師は一人当たり一日に2件の調律の仕事をこなすとし、5年で全ピアノの調律がなされる(=どのピアノも5年に1回調律している)とすると
    7.2万÷(365×5×2)≒20人
    いればよく、ピアノ調律の仕事の需要と供給が釣り合ってると仮定すれば、これだけいるはずである。

その本の解答例は、仮定はほぼ同じで、170人と推定していた。たいていは75〜200人ぐらいに収まるらしい。過少見積もりだったようだ。ちなみにシカゴ市(近郊は除く)の人口は265万人、大阪市の人口は267万人だそうで、いい勘してた(これも過少見積もりだったけれど)

世界中で1日に食べられるピザは何枚か?

  1. 世界人口100億とする(もちろん常識的には70億人だが、計算を簡単にするためにこうした)
  2. 平均して1世帯3人とすると30億世帯
  3. そのうち1/3が都市部にあるとすると10億世帯
  4. そのうち半分がピザを食べる習慣があるとして5億世帯
  5. これを以下のように3つのグループに分ける(各1.6億世帯)
    1. 1/3がよく食べる=週に1回として1.6億/7=2000万(各曜日で等しい数の世帯でピザが食べられていると仮定)
    2. 別の1/3は時々食べる=月に1回として1.6億/30=500万
    3. 残りの1/3は殆ど食べないとして無視(←年に1回としても2桁違うので無視)
  6. なのでa+b+c=2500万枚

解答例では、セグメンテーション(場合分け)も、ロジックも、大きな違いはなかったのに、1.4億枚と推定していた。何が違うかというと、

  1. 週1で食べる人=5億人
  2. 月1で食べる人=20億人
  3. 食べない人=40億人
と推定していたところ。なぜそこが違うかと言うと、僕の仮定の3と4。この2つの仮定が無ければ6倍=1.5億枚になって、値は近くなる。もちろん正解はわからないが、どちらのほうが説得力がある仮定だろうか?微妙なところかと思う。

琵琶湖の水は「何滴」あるか?

  1. 僕の自宅〜和歌山の通勤距離が片道80km強。たぶん琵琶湖の「長軸」の長さがこれぐらい。
  2. 短軸はその1/3ぐらいのような気がするから30km
  3. 楕円の面積は単純計算できないけど、長方形と近似した80x30=2400km2よりは小さい。だから2000km2=2x109 [m2]としておく。
  4. 深さが全然わからないけれど、平均して、10mってことはないし、1000mってこともないだろうから、100mとしておく。
  5. 水量は(2x109)x100=2x1011m3
  6. 「1滴」は1ccよりは少ないだろう。でも1ccから10滴は作れそうにない気がする。5滴で1ccとすれば、

    1滴=0.2cc=2x10-1x(10-2)3=2x10-7 [m3]

  7. 従って

    (2x1011)/(2x10-7)=1018滴=(1092滴=10億×10億滴
解答例によれば、詳細を省くと
  1. 表面積 30km×50km×0.5
  2. 平均水深 50m
  3. 水滴体積 4π×(2-33/3[m3]
  4. として水滴数≒ 1×1018 ←ぴったり!
となって、「ご名算!」となった。ちなみに同書でやっていたリアルな数字を用いた検証によれば、0.7×1018滴とのこと。なかなかいい精度だ。

プッと笑い出しそうなアホみたいなお題が、「わかってしまう」という快感! 算数自体は大キライだけど、この「わかる」快感、「うわwwwできてしもたがなwww」がたまらない。まさに知的遊戯。