大気汚染が地球温暖化を抑止する?, 植松, JGL, vol.5, No.3, p1-3, 2009

【結論】地球温暖化を抑制するには、大気汚染物質を大量に放出すればよい。海洋生物生産も高まり、CO2も海洋に吸収され、しかも海洋性エアロゾルも増え、霞んだ日々が増える……ことになっちゃう。

  • しかしこれらの一連の過程に伴うフィードバックについては殆どわかってない

以下その理由;

海洋における温暖化の影響

  • CO2による温暖化寄与率は、温室効果気体全体の60%を占める
    • が、CO2放出抑制だけで温暖化が本質に抑制されると考えるのはダメ

外洋域(太平洋、大西洋、インド洋など)では海水温上昇が観測されている人工衛星

∴この減少傾向は

  1. 海水表面が暖められ
  2. 海水の密度勾配が急になり
  3. 成層化が強まり
  4. 栄養塩の下層から表層への供給が弱まり
  5. 生物生産が低下したため

だろう。

大気汚染物質の海洋への沈着

外洋域ではなく沿岸域では、生物生産が高い。

  • 特に北半球の沿岸域や中緯度海域ではもっと高いことがわかった

同じ6年間に23-68%のクロロフィル濃度の増加を観測。その理由は、

  1. 「沿岸湧昇として高い栄養塩濃度を持つ海水が下層から海洋表層に湧き上がってくる量」や「大気汚染物質の陸から海洋表面への沈着量」が増加
  2. それにより海洋表層の生物生産が高められたから。

栄養塩の中でも、窒素化合物と鉄が注目される

  • 不足しがち=海洋生物生産に必要とされる

陸から海洋へのこれらの物質供給の経路=河川、地下水、大気

  • 大気経由の場合、(河川水=拡散移流に比べて)短時間で広い海域の表面に沈着するのが特徴
    • 東シナ海=特に人為起源物質の供給が大きい縁辺海では、窒素化合物の長江からの流入量≒大気経由の沈着量
      • 窒素に換算して年間に数百Gg

Duce et al., 2008によると…

  1. インド洋・西部太平洋域での顕著な窒素供給量が増加し
  2. 植物プランクトンが増加し
  3. 大気中のCO2が海洋に吸収される
  • そのうち約10%が窒素化合物の沈着による「施肥効果」の寄与

と考えられるのだが、同時に

  1. CO2の約300倍の地球温暖化指数を持つ一酸化二窒素(N2O)が海水中で生成
  2. 大気中に放出
  3. CO2現象による温暖化抑制効果の2/3が相殺される

と見積もられた。

海洋生態系と炭素循環

  • 大気-海洋間の過程
    • 植物プランクトンの増殖→大気中のCO2をより海水中へ取り込む
    • 海洋表層での生物の呼吸と有機物の分解→大気中にCO2を返す
    • 未分解の有機・無機炭素は、粒子沈降・海水交換によって深層へ=大気からのCO2の海中への隔離

深層へ輸送される炭素量=表層でCO2から作られる有機炭素の10%程度

  • この輸送効率はプランクトンの種類、大きさ、分解速度などにも依存
  • 輸送効率大+深層で分解が進む=酸素の大量消費=無酸素状態
  • 室内実験によると、将来の温暖化した海洋表層では…微生物の活動が活発化→プランクトンの分解が加速→深層への有機炭素輸送減少
  • 表層でも、生物活動・分解に伴って一部では還元的環境が形成=N2O、CH4、CO、揮発性有機炭素(VOC)など温室効果期待がが生成→大気へ放出
    • 陸上に比べるとわずかだけど。

エアロゾルによる温暖化抑制効果(海洋生物起源エアロゾルの働き)

  • 直接効果
  • 間接効果
    • 雲粒の物理的・光学的特性を変化させる
      1. 結核個数濃度増→雲粒数増→1つ当たりの粒径小→アルベド
      2. 結核個数濃度増〜粒径小→降水抑制→雲の滞留時間増→雲の被覆率増
  • エアロゾルの起源
    • 陸半球:大気汚染=人為起源
    • 海半球:海洋生物起源
  • 衛星画像解析によると
    • 南半球よりエアロゾル数の多い北半球で、雲粒の粒径が小
    • 都市域では週末にエアロゾル発生量減、降雨頻度に有意な統計的変化
  • 南大洋:人類活動影響殆どないが海上微生物の影響が雲に!
    • 植物プランクトンのブルーム海域上空の雲粒個数濃度
      • そうでない海域の2倍 & 雲形成可能粒子の半径30%減少
    • 放射強制力
      • −15W/m^2=大気汚染地域と同等
    • 意味:以下の仮説(ストーリー)を裏付ける。
      1. 海洋生物生産upすると
      2. 大気エアロゾルが増えて
      3. (水蒸気量一定なら)雲粒数濃度が増えて
      4. 雲粒の粒径が小さくなり
      5. 雲の反射率が上がり
      6. 雲の寿命も延びる

大気汚染物質の温暖化抑制

欧州では1980年代から0.5℃/10年もの急激な温暖化が進行中

    • 全球平均は 0.13℃/10年
  • 霧・霞・もやの発生日数
    • 南欧を除く欧州全域で、昼夜を問わず通年で、過去30年間で40-60%減少
    • 大気汚染削減努力による化石燃料起源のSO2放出量減少と対応!
  • 曇天日数
    • 30年間で約5%以下の減少(非常に小さい)

霧などの発生日数減少(=太陽輻射増加)

  • 昼の温度上昇の10-20% in 欧州全域平均
  • 総温度上昇の50% in 東欧平均

に寄与していた。
∴ヨーロッパでは、大気汚染防止策によるエアロゾルの減少⇒急激な温暖化を招いた、と言える。