雪氷上の生物群集 〜生態系として見る氷河〜, 竹内, JGL, Vol.5, No.4, 6-8, 2009

氷河や積雪の表面には、氷点に近い環境で活動できる特殊な生物「雪氷生物」が生息している。

  • ここでの定義:雪氷上で生活史の大部分をついやす生物
  • 南極氷床からヒマラヤの氷河まで、世界各地の氷河上にほぼ例外無く存在
  • 雪氷上と言っても氷点下数十度の厳冬期には殆ど活動しない
    • 主として氷河表面が融解し液体の水が存在する夏季に活動する

生態系

動物では、

  • クマムシ、ユスリカ、カワゲラ、トビムシなどの昆虫
  • その他、ミジンコ、コオリミミズ、ワムシなど

これら動物のエサとなるのが光合成微生物である雪氷藻類

  • 雪氷上で繁殖する特殊な藻類
  • 主として緑藻、シアノバクテリアの仲間
    • 世界中で百種近くの報告

さらにこれらの生物遺体等の有機物を分解するバクテリア

  • 低温で活動可能な好冷菌または耐冷菌と呼ばれるグループ

氷河上ではこれらの生物によって独立した食物連鎖が成り立っている幸島, 1994)

雪氷生物の地理分布

植生や哺乳類の分布と同様に、氷河上の生物群集も各地域の氷河によって特徴がある。

さらに生物群集から氷河を地域ごとにグループ分け可能なこともわかってきた。
氷河上の生物種はどう分散する?

  • 大気による分散が考えにくい昆虫やコオリミミズの地理分布はかつての氷河拡大期氷期における氷河の拡大規模を示しているのかもしれない

氷河を融かす雪氷生物

微生物やその生産物が氷河表面に堆積すると、氷河表面のアルベドを下げて日射の吸収を促進 ⇒ 氷河の融解を加速

  • ヒマラヤやチベットが顕著
    • 消耗域だと黒く汚れて見える
    • アルベドは0.1程度
      • 不純物のない氷が0.4程度
    • 融解速度は生物無し状態の3倍に
  • アラスカではアルベドは0.3程度
    • 微生物は存在するがアルベド低下効果は大きくない

両者の違いは、表面で繁殖する藻類の種類が関係しているらしい。

  • アラスカでは緑藻中心
  • ヒマラヤ・チベットではシアノバクテリア中心
    • シアノバクテリアは細い糸状
    • 他の微生物、有機物、鉱物粒子と絡み合いながら小粒子「クリオコナイト粒」を形成
      • クリオコナイト粒が堆積するとアルベドが下がる

【重要】近年のヒマラヤ・チベットの氷河の縮小傾向には、これら雪氷微生物の効果の寄与があるのは間違いない。

  • 温暖化のせい(だけ)じゃないかも!?
  • 現在のこの生物分布が温暖化の影響を受けてのものかもしれない

氷河を生態系として見る

特に欧米の研究者業界では、スノーボールアース時の生物の生存や、火星やエウロパなど地球外雪氷で生命が存在する可能性を検討するモデルとしても、雪氷生物の研究が注目されている。