「温室効果」と「温室の効果」に関する研究まとめ

American Geophysical Unionの新聞Eosの2010年11月16日号に興味深い記事(2010EO460006.pdf)があったのでまとめ。
まず、この少し前の号に、What Is the Atmosphere’s Effect on Earth’s Surface Temperature?と題する投稿記事があったようで、そこでgreenhouse effectという単語を使って意見を述べられていたそうな。
しかしこのgreenhouse effectという単語の使い方がmisleading、ないし間違っとるよ、というツッコミが、今号で入った。そのツッコミの中に、「温室内があったかいのは温室のガラスの透過特性のため、じゃないよ」という話の元ネタが記載されていた。

  • greenhouse effectというフレーズの生みの親とされるJoseph Fourierは、1827年に「温室効果は温室の効果ではない」こと、温室が暖まるのは外気と遮断されているのが原因であること、に気付いていた。
  • 上記のように温室内の空気が温められることに関する実験 ⇒ Wood, R. W. (1909), Note on the theory of the greenhouse, Philos. Mag., 17, 318–320.
  • 同じく、量的な解析による研究 ⇒ Businger, J. A. (1963), The glasshouse (greenhouse) climate, in Physics of Plant Environment, edited by W. R. van Wijk, chap. 9, pp. 277–318, North- Holland, Amsterdam.
  • 温室のガラスの「温室効果」の程度を示した実験は ⇒ Dayan, E., H. Z. Enoch, M. Fuchs, and I. Zipori (1986), Suitability of greenhouse building types and roof cover materials for growth of export tomatoes in the Besor region of Israel: 1. Effect on climate conditions, Biotronics, 15, 61–70.

そのDayanの実験についての概説を俺訳で引用:

温室の放射特性の果たす役割は小さいが、その効果のほどは、ガラス(3μm以上の長波に対して殆ど不透明)で作られた温室内の室温と、ポリエチレン(長波に対して殆ど透明)で作られた温室内の室温とを比較してみればわかる。南イスラエルのクリアな空の下で行われた6ヶ月間に及ぶ測定の結果によれば、両者の間には非常に小さな差異しか見られなかった;最高温度については、温度差(ガラス温室−ポリエチレン温室)の平均は0.56±1.56℃で、最低温度については平均温度差は0.22±0.62℃だった。


ところで、このつっこまれたほうのオリジナル記事では、どんな話をしていたかというと、メインの話題は知らないが、地球大気がもともと持っている温室効果の説明にいちゃもんを付けていたらしい。よくある温室効果の説明はこうだ。

もし地球に大気がなかったとしたら、入ってくる太陽エネルギーと収支が合うような地球表面の熱放射をするための地表温度(放射平衡温度)は-18℃になる。

で、元々の記事での意見では、これに対し

雲の反射率が入ってるじゃないか。大気が無いなら雲は無いだろ?雲はよく反射するから、入射太陽エネルギーを低く見積もり過ぎだ。雲の無い状態でエネルギー収支を計算したら、平均地表温度は-5℃になるぞ。

と言ってたらしいのだ。これに対してのツッコミが入っていた。曰く、

雲を取っ払った、って言うけど、取っ払った後の地表面の反射率って、現代の地球の地表面反射率で計算してるよね? それを言うんだったら、大気が無くなったら、海が凍り付く(全部沸騰したあと雪になって降ってくる)じゃん。そしたら反射率が上がりまくって、結局温度は下がっちゃうよ? 俺思うんだけどさー、これから一般向けの本とか教科書とかを書く人は、「大気が無かったら、地球は凍り付いた惑星になるでしょう」って書くべきじゃないのかな。

なかなか笑えた。