シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略(レイチェル・ボッツマン&ルー・ロジャース)

シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略
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  • 著者:レイチェル・ボッツマン (著), ルー・ロジャース (著), 小林 弘人 (監修), 関 美和 (翻訳)
  • ハードカバー: 328ページ
  • 出版社: 日本放送出版協会 (2010/12/16)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 4140814543
  • ISBN-13: 978-4140814543
  • 発売日: 2010/12/16
  • 商品の寸法: 19.2 x 14 x 3.4 cm
  • オススメ度:★★★☆☆


‥‥長いよ。(-"-;



2009年秋、ビジネス書界隈で話題をかっさらった本の1つに、クリス・アンダーソン著『フリー ~〈無料〉からお金を生みだす新戦略』があった。その続編とばかりに2010年秋に「次のビッグウェーブはこれだ!」と(『フリー』の波も大して来ていないというのに(^^;)売り出されたのが本書である。装丁もそっくりだが、最も重要なのは、本のぶ厚さもそっくりということ(笑)。『フリー』では「お前、それだけのことを言いたいんやったら、もっと簡潔に書けるやろ!」と罵倒したくなったものだが、本書も全く同じである。アメリカ人の書くビジネス書が一般的にこういうものだとしたら、困ったものである。
さらに『フリー』より読みにくいポイントが2つある。1つは、アメリカでどうやら広がってきているらしい様々なwebサービスを、「みんなもう知ってるよね?」という前提で、紹介もろくにせず議論に使っていること。どんなサービスなのかわからないまま「これは素晴らしい」と言われても困る。アメリカでもこれらのサービスを説明無しで誰にでも通じるとは思えないのだが‥‥まぁ、本書を手に取るような類いの(在米の)人々なら常識ということなのだろうか? 読みにくいポイントの2つ目は、論としてこなれていないこと。某先生は「コンサルやコラムニスト風情が書く本なんてたかが知れている(=自分たちの書くようなものこそ議論と呼ぶに相応しい、ということか?)」と公言してはばからないが、本書の執筆者は2人ともコンサルタントである。
さて本書の内容であるが、原題はWhat's Mine Is Yoursと言う。つまり「私のものはあなたのもの」。ジャイアンとは逆のセリフであるが(笑)、要するにそういうことだ。「買う」=「所有する」ことから、「共有する」ことへ、世の中が(あるいは消費者の動向が)シフトしている and していくだろうという主張であり、またそういうビジネスのあり方、社会のあり方を論じている。
簡単に「共有」と言っても、実際のイメージを浮かべにくいかもしれない。本書にはこれでもかと例が出てくるが、極端な例で言えば、「カウチサーフィン」が挙げられるだろうか。このサービスは、誰かの家に転がり込んででも旅費を抑えたい旅行者と、そういう旅行者を「ソファ(=カウチ)で寝てもいいと言うならば」自宅に泊めてあげても良いという人をつなぐサービスである。見知らぬ旅行者を自宅に泊めるわけだから、このサービスは日本にはなかなかなじみにくいとは思うが、まぁ、アイデアは分かる。本書の文脈に沿った表現をするなら、余った自宅の空間を「共有」しているのである。
あるいは「モノ」のやりとり=物々交換や、「それやってあげるから、これやってね」=技術の交換などなど、金銭という「メディア」に価値を一旦預けることをせず、直接に「価値」を交換するような行為全般がここに含まれる。そういう行為は、近代化・高度産業化以前の、世界中の「村社会」では当たり前のように行われていたはずである。「向こう三軒両隣」の文化とも言える。それが、様々な要因により、現代では不可能になっているわけだ。今や通りすがりの人と目が合って会釈したら不審者扱いされる世の中である。モノの貸し借りなんて信用あってのものだから、誰も信用できないことが前提の今の世ではなかなか難しい。だが、いま、というか「いまの次」では、インターネットによってその障壁が取り除くことができるようになってきている‥‥とりわけ、圧倒的な人間集団の中から1対1のマッチングを行うことができる技術に鍵がある、というわけだ。
全体として、ビジネスモデルとしては『フリー』の「非貨幣市場」の話をじっくり考えて展開したようなもの、と言えるかもしれない。しかし本書を、サステイナビリティについてのヒントと捉えるなら、非常に示唆に富んでいる。主張されている論も、挙げられている例も、である。その意味では、当初はビジネス系の担当講義のネタのつもりで読んでいたのだが、むしろ別の自然科学系の講義のネタになりそうだ。
とにかく色んな例が出てくる割にはあまり整理されていないので読みこなすのに骨が折れる。オススメは、巻末に監修の「こばへん」こと小林弘人氏による解説を先に読むことだ。雑多で多過ぎる例をばっさり省き、論点と要点がよく整理されていてわかりやすい。この巻末だけでもいいかもしれない(笑)。しかも、販促用のいわゆる「帯」に、本書で取り上げられている例が端的に整理されている。僕は電車で読むのに邪魔な「帯」はすぐに外してしまうので、こんなとこにこんな良い一覧があるなんて気付かないまま苦労して読み、読了後に本棚にしまおうと帯を付ける時に初めて気付いた。皆さんはこのような時間のムダをなさらぬようにして頂きたいものである。