生命の起源:新しい地球惑星科学の課題, 掛川, JGL, Vol. 5, No. 2, 5-7, 2009

アミノ酸を初期地球上にいかに用意するか?
現在有力な説は‥‥

パンスペルミア説(地球外説)
宇宙空間で精製されたアミノ酸を地球に運び生命の起源に結びつける
地球説
地球上で重要な有機分子を作る

パンスペルミア説の根拠

  • 炭素質隕石中にアミノ酸が含まれている(←周知の事実)
  • 現在の生物中のタンパク質には左型のアミノ酸しか含まれていない
  • マーチソン隕石中の一部のアミノ酸は若干左型に富んでいる
  • 円偏光を持った宇宙線を浴びながらアミノ酸生成が行われると鏡像異性体の関係が崩れる(←実験で確認された)
    • ∴宇宙空間でも左型が卓越した状態のアミノ酸を作り出すことが可能、と言える

地球説と有名な「ユーレー・ミラーの実験(ユーレー・ミラー型反応)

「初期地球大気にCH4やNH3が含まれていた」という前提で、雷放電実験したらアミノ酸が作れた。

  • その後「CH4やNH3に富んだ大気」は考えにくいことが判明
    • 初期地球のマグマオーシャンは岩石中にあった揮発性成分を初期大気にもたらす作用があると同時に、大気の組成をコントロールする役目も果たしたこと(大谷&掛川, 2005)を踏まえると、初期大気はCOやCO2とN2に富んでいたはず
      • 一般に、CO2とN2からのアミノ酸生成は極めて困難
  • その次の仮説:海底熱水説
    • 海底熱水環境を想定した実験が近年になって展開されているが、実験結果が天然に適用できるか、まだ不明。
  • その他、既存の説の問題点
    • これらの仮説では、生成できるアミノ酸の「種類」が限定的。
      • 生体タンパク質を作るにはアミノ酸は20種類必要
    • これらの仮説では、生命を作るのに必要な「総量」が足りるどうかも疑問

隕石と海洋の衝突が生体有機分子を生んだ

まず用語の整理。

後期隕石重爆撃
42〜38億年前頃に、隕石や微惑星の衝突頻度が急増した期間のこと。衝突頻度は46億年前以降から指数関数的に減少するはずなのに変だよね、という話。
ポストインパクトプルーム
隕石と海水と地殻が蒸発してできる衝突蒸発雲

新説のメカニズムは以下の通り。

  • 後期隕石重爆撃期以前に、既に海洋は形成されていたはず。
    • 多くの隕石は海洋に衝突し、ポストインパクトプルームを作った。
  • 隕石や微惑星には、しばしば金属鉄や硫化鉱物=還元剤が含まれている
    • これらが衝突蒸気雲内で還元剤として働けば、生体有機分子の元になるNH3などを作れそうだ!(中沢, 2006)
  • 実証実験(Furukawa et al., 2009)
    • 隕石と海洋を模した衝突実験でN2をNH3に還元できた!
    • さらに生成されたNH3は炭素と反応してアミノ酸、アミン、カルボン酸等の有機分子を生成した!
  • 隕石重爆撃期は数億年続く
  • 雲内で作られたアミノ酸は海洋に蓄積
  • 海洋に溜まったアミノ酸は「化学進化」に使われる
  • 地球だけに生命が発生した理由の合理的説明が可能:以下の条件を満たせたのは太陽系でおそらく地球のみ
    • 「水」が早くから海洋として安定に存在した
    • 水に対する「隕石の衝突」が実現した

ペプチド生成こそ固体地球と生命起源との最も重要な接点

アミノ酸をいかに生命へと進化させるか?

  • アミノ酸を重合させ、まずペプチドを作らねばならない
  • ペプチドがさらに結びついて構造を持ち、タンパク質となる
    • タンパク質になって初めて次のステップに進める
  • 仮説:火山噴気孔、干潟、海底熱水孔などでペプチド生成が行われた?
    • 実験では確かにペプチドは生成されるが、寿命が数分しかない

地殻内胚胎説

地下深部がアミノ酸の貯蔵庫になる!?

  1. 海洋中に粘土がもたらされる
  2. その粘土が海水中に溶けているアミノ酸などを吸着
  3. 海底に沈殿
  4. アミノ酸は粘土とともに海洋地殻内深部に埋没
  5. 粘土とともに続成作用(堆積物の組成等が地下深部の温度・圧力によって変化して行くプロセス)を被る
  6. 堆積物中でアミノ酸が分解・消費されずに地下深部までもたらされる
    • 俺注:↑地下の高温高圧環境でアミノ酸が壊れないって変じゃない?と思うが、その回答は後述される。

そして重合へ。

  • 重合に必要なエネルギーは、地熱がいっぱいあるのでOK
  • 地下の高圧によって圧縮され、アミノ酸分子同士も反応を起こし易くなる
  • アミノ酸重合反応は脱水反応
    • 堆積物が圧縮される過程で間隙水も移動
    • その過程でアミノ酸重合で出来た水も移動し易くなる
    • さらにペプチド生成反応が進んで(゚д゚)ウマー
  • 一部の粘土鉱物にはアミノ酸重合を促進させる触媒効果がありそう

実験では?

この実験結果のポイントは、ペプチドが高温環境でも長時間にわたって安定に存在できたこと!

  • 地質時間の中で化学進化が進むことを考えると、生命の前駆物質が長時間安定に存在できることが、化学進化の次のステップへの大きな鍵となるだろう