van de Hulst, "Light Scattering by Small Particles", §2.2〜2.4

2.2 エネルギー保存
全方向へ散乱されたエネルギーの合計が、面積C_scaに注ぐ入射波のエネルギーに等しいとしよう。この定義と、前節の式を使うと、

C_sca = 1/k² ∫F(θ,φ)dω

となる。ここで dω = sinθdθdφ は微小立体角要素であり、積分は全方向で行う。同様に、粒子内部に吸収されたエネルギーが面積C_absに注ぐ入射波のエネルギーに等しいと定義し、またオリジナル・ビームから除かれたエネルギーを面積C_extに入る入射波のエネルギーに等しいと定義する。このとき、エネルギー保存則により次の関係が要請される。

C_ext = C_sca + C_abs

この C_ext、C_sca、C_absという量は、それぞれ粒子の減光、散乱、吸収に関する断面積 cross sectionと呼ばれる。これらは面積の次元を持っている。一般に、これらは粒子の方向と入射光の偏光状態の関数である。

吸収の無い粒子では C_ext = C_sca である。このとき断面積は添字を略して C と表記することがある。

2.3 運動量保存; 輻射圧

Maxwellの理論によれば、光はエネルギーだけでなく運動量も運ぶ。その方向は光の伝播方向と同じで、大きさは

運動量 = エネルギー / c

と定義される。cは光速である。運動量のうち、入射波の伝播方向(以後これを前方と呼ぶ)の成分を考えよう。元の光線から取り除かれる運動量はC_extに比例する。このうち、C_absの部分は何とも置き換えられないが、C_scaの部分の一部は散乱光の運動量の前方向き成分を使って書き換えることができる。任意の方向へ進む散乱光の前方成分は Icosθ に比例する。従って散乱光全体が前方へ運ぶ運動量の合計は、

(めんどい式なので略)

に比例する。この方程式は、散乱関数を重み付けとして用いた cosθ の加重平均の定義式である。10.62節と12.5節で例を示す。以上より、入射光線から除かれ且つ散乱光の運動量前方成分で書き表されない運動量前方成分は、

(めんどい式なので略)

に比例することになる。吸収の無い物質では

(式略)

である。この運動量は散乱粒子に与えられる。従って、散乱粒子にはある一定の力が入射波の伝播方向に働く。これがよく知られた現象である輻射圧 radiation pressureである。この力は面積C_prの黒い壁に光が入射したときに働く力に等しい。その大きさは

Force = I_0 C_pr /c

である。一般には、粒子は、入射光の伝播方向に垂直な方向にも力を受ける。その大きさも同様にして求めることができる。その成分の影響は、ランダムな方向を向いた粒子集団の雲の中では全体として打ち消し合って無くなってしまう。粒子はまた一般にはトルクの影響も受ける。これの計算には、離れた場だけでなく1/rのより高次の累乗で近似される場も必要である。

2.4 効率

ほとんどの粒子は明確な幾何学的断面積Gを持つ。例えば半径aの球ならG=πa²である。無次元の定数である、

Q_ext = C_ext / G
Q_sca = C_sca / G
Q_abs = C_abs / G
Q_pr = C_pr / G

のことをそれぞれ減光、散乱、吸収、輻射圧についての効率 efficiency factorと呼ぶ。一般的な粒子では、これらの効率は粒子の方向と入射光の偏光状態に依存する。球ではそのどちらにも関係しない。またいかなる場合にも、

Q_ext = Q_sca + Q_abs

が成り立つ。