van de Hulst "Light Scattering by Small Particles" §1.1

1.1 散乱、吸収、減光
この本は光の散乱 scattering について書かれている。光が光源から直接に観測されることはまずない。ほとんどの光は直接我々の目に入ってくるわけではない。木や家に目をやれば我々は乱反射された太陽光を見ているし、また雲や空を見上げれば散乱された太陽光を見ている。電気スタンドのランプであっても我々に明るく光ったフィラメントから直接に光を届けてくれるわけではなく、普通は電球のガラスによって散乱された光でしかない。光の研究や、光の工業的応用に従事する人は誰もが散乱の問題に直面することになる。

散乱はしばしば吸収 absorption を伴う。気の葉っぱは緑色に見えるが、これは葉っぱが赤い光よりも緑色の光を効率よく散乱するからである。この赤い入射光は、葉っぱに当たって吸収されるのである。これは、この赤い光の持つエネルギーが何か他の形態に変換され(何の形態に変換されたかはここでは問題ではない)、もはや「赤い光」としては現存していないことを意味している。吸収は石炭や黒煙といった物質で顕著に働く。雲では(可視光領域では)ほとんどない。

散乱・吸収のどちらも、媒質中を進む光線からエネルギーを削り取っていく。つまり光線は減衰していく。この減衰は減光 extinction と呼ばれ、光源を直接見たときに見えているものである。例えば太陽は、正午よりも夕暮れ時のほうがより暗く、より赤くなっている。これは長い光路内での減光を示しており、この減光が全ての色に対して強く働くものの、赤い光よりも青い光の方がより減光が強いことを示している。この観測だけでは、散乱・吸収のどちらがこの減光に大きく寄与しているかを判定することはできない。太陽光が降り注いでいるその空気を横から見れば、実際に青い光がより強く散乱されていることがわかる。測定によると、元の太陽光線から取り除かれた光の全てが散乱光として再び現れる。従って、吸収ではなく散乱が、この例に於ける減光の原因となっている。

他の用語体系も時々用いられるがお薦めしない。ここでは「吸収」という語を上記の意味での減光として使うことにする。【脚注1 用例:「星間吸収 interstellar absorption」】実際の吸収は「純吸収」"pure absorption" あるいは「真の吸収」"true absorption" と呼ぶことにする。この本を通じて用語は上記の通りとし、従って

減光 = 散乱 + 吸収

である。