「中卒」でもわかる科学入門 ― "+-×÷"で科学のウソは見抜ける!(小飼弾)

「中卒」でもわかる科学入門 "+-×÷"で科学のウソは見抜ける!

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  • 小飼 弾 (著)
  • 価格: ¥820
  • 新書: 202ページ
  • 出版社: 角川書店(角川グループパブリッシング) (2013/2/9)
  • ISBN-10: 4041103851
  • ISBN-13: 978-4041103852
  • 発売日: 2013/2/9
  • 商品パッケージの寸法: 17 x 10.8 x 1.4 cm
  • おすすめ度: ★★★☆☆


まず、本のタイトル担当の編集者が名付けるらしいけれども、このタイトルはひどい。中身はとても良いと思うが、このタイトルはあんまりだ。詐欺といってもよい。

本書の著者はブロガーとしても有名な小飼弾である。元・「後にライブドアになる会社」の技術部門の最高責任者だったひとである。プロフィールに曰く、中学校卒業した後、確かに高校には行っていない。しかし大検をとっている。さらに、確かに大学は卒業していない‥‥が、カリフォルニア大学バークレー校に行っている。世界に名だたる名門大学である。しかし中退であるのは事実だ。だから総合すると、学歴は「中卒」になってしまう。で、その「中卒」を名乗る小飼弾が理解している科学と社会のあり方についての本である。だから、一応タイトルに嘘は無いが、タイトルを常識的に解釈して想像するような内容の本ではない。

裏表紙には「科学的態度」が本書のテーマであると書いてあるけれども、それもあやしい。確かにはじめのほうは、東日本大震災後の日本の社会を生きるために必要な科学リテラシーとは何か、サブタイトルにあるように四則演算でどのようなことが解釈できるようになるか、数字と向き合うにはどうしたらいいか、数字を扱ったニュースに騙されないためにはどうしたらいいか、等々が扱われている。その辺は確かに科学入門というか、あるいは科学リテラシー入門という体裁になっている。一応。しかし、中盤以降はもはや全く科学の話ではなくて、最近の世の中を小飼弾がどのように見ているかについて、特に震災後の世の中についてどのように情報に踊らされないための小飼弾の考え方が述べられている。いっそのこと「小飼弾が世の中を斬る」というようなタイトルにすれば正直で良かった。あるいは、そんなタイトルで釣られないだけのリテラシーを持ってないとダメだよというメッセージなのだとしたら、まぁ、僕もまだまだダメだということかな。

逆に、小飼弾のエッセイだと割り切って読めばかなり面白い。さすがはひとかどの人物である。エンジニア的な視線・視点に重きが置かれているが、これまた読書家としても名高い著者の教養の深さのようなものもにじみ出ている。また会社の取締役として人の上に立ってきた人間ならではの「世の中を見通すような視線」が非常に面白い。特に後半の「科学と社会の関係」の話題で通底している主張が「いずれ太陽光発電における技術革新によりエネルギー使い放題、略して『エネ放題』の時代が来る」というもの。いかにもエンジニア出身の人が考えそうなことではある(揶揄しているのではなくて、文字通りの意味で)。果たして人工光合成とどちらが早いか!? また、これは小飼弾のコメントではないのだけども、東大・早野龍五教授との対談の部分は、分量は少ないけれど非常にためになる(特に科学者としての僕にはためになった)

全体として、科学リテラシーを持っている人間が読めば面白いが、そうでなければそうでないという、まぁ、いかにも新書、といったところか。