観光とまちづくり―地域を活かす新しい視点(深見聡&井出明)

観光とまちづくり―地域を活かす新しい視点

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  • 海野 敦史 (著), 庄子 真岐 (著), 鈴木 晃志郎 (著), 永吉 守 (著), 深見 聡 (編纂), 井出 明 (編纂)
  • 単行本: 247ページ
  • 価格: ¥2,730
  • 出版社: 古今書院 (2010/04)
  • ISBN-10: 4772231307
  • ISBN-13: 978-4772231305
  • 発売日: 2010/04
  • 商品パッケージの寸法: 21 x 14.8 x 1.4 cm
  • おすすめ度:★★★☆☆


深見氏は、ジオパーク研究の日本の第一人者と言っていいのではなかろうか。ちなみに僕と同い年であるらしい。非常に温厚で、丁寧かつ気さくな方である。本書を本棚の肥やしにせず手に取ったのは、おそらくこれから深見氏と仕事をすることもあるだろうから、どのような研究のバックグラウンドがあってジオパークを手がけていらっしゃるのか知っておこうと考えたからだ。ご出身が鹿児島の深見さんは当地でのまちづくり・まち歩き関連のNPOを長年運営してきた人で、そんな鹿児島ラブで歴史ファンの深見さんが各章に挟み込む「トピック」がもうとにかく鹿児島押しで、どんだけステマやねんっていうw

その深見氏を見出した(その辺りのエピソードがまえがき・あとがきに書かれていて微笑ましい)のが井出氏である。僕が井出氏を見たのは昨年だったか、全く関係のない話題の講演だったのだが、最近ではダークツーリズムで注目されている人である。社会学系の研究者としてはなかなかにワイルドな(笑)出で立ちが印象に残っている(元々は情報学地方出身だそうだが)

そんなお二人が編著になっている本書は、タイトル通りの本である(笑)。各章はもともとは単独で論文として発表されたものがベースになっている。深見氏お得意の歴史観光や、大河ドラマ篤姫」観光、史跡とまちあるき・まちづくりなどが論じられるところから始まり、様々なテーマが取り上げられる。世界遺産観光の国際比較、マイナーな地域代表の西アフリカ観光などは、類書ではなかなかお目にかかれそうにないトピックだった。

条件不利地域の観光、のコーナーが僕的には素晴らしかった。ここで言う「条件不利地域」とは、端的に言って「現時点での根拠の有無に関わらず、『なんとなく』悪いイメージを抱かれがちな何かを持っている地域」である。具体的には青森県六ヶ所村(=核燃料処理施設がある)熊本県水俣市(これは説明不要だろう)が取り上げられていた。科学コミュニケーション論、あるいは科学技術社会論の立場から見ても重要であることは、本稿をお読みの皆さんにとっては言うまでもないだろう。

逆に、本書ではやや力を入れて論じられている復興観光というか「被災地における観光業」の部分は、疑問が残った。確かに、人々の所在の迅速な把握のためのネットワークや、適切な(一時的な)居住環境の提供、移動手段の確保など、観光業の持つノウハウは、被災地の、まさに緊急時に非常に役立つものである。しかし、そこで「観光業としてサービスを提供する」‥‥つまりビジネスとしてのサービス展開を行うための観光業のあり方を考えるというのは、どうだろう。本当に緊急避難が必要となったところの避難所生活の劣悪な環境から脱出したい人々がお金を払ってホテル暮らしを選んでいた、というのは確かに事実だ。だからと言って、それは‥‥学術的には面白いかもしれないけど、「嬉しい」か?

「アートマネジメント」がマネジメントするのは、展示方法なのか、それとも展示すべきコンテンツなのか、はっきりしていない。もちろん両方とも必要なのだけど、両者は全く違う事柄だから分けて論じるべきだろう。「アートマネジメント」なる単語の響きに酔っているのではないか、あるいはあまりミュージアムの勉強をしていないのではないか、などと勘ぐってしまうのは僕だけだろうか。関係ないがアートマネジメントの12章で、藤原紀香の本が文献に挙がっていて「これはw」となってしまった。

様々なトピックを扱っていて、しかもいわゆる「観光学」の「どストライク」な本では出て来ないんじゃないかと思われるような素材の選び方が印象的な本書なのだが、劇的にクオリティを下げている残念なポイントが一つある。写真の扱いがひどいのである。大きさ、解像度、ダイナミックレンジ、もう何から何まで、何が写っているのかさっぱりわからない。印刷クオリティが上げられないのなら、せめてどどんとページ幅いっぱいに大きく載せればだいぶマシだっただろうに、と思うと残念である。