温泉地再生―地域の知恵が魅力を紡ぐ
- 久保田 美穂子 (著)
- 単行本: 207ページ
- 出版社: 学芸出版社 (2008/6/30)
- 言語 日本語
- ISBN-10: 4761524332
- ISBN-13: 978-4761524333
- 発売日: 2008/6/30
- 商品パッケージの寸法: 21 x 15 x 2 cm
- おすすめ度:★★★★☆
本書は、特徴ある温泉地について、現地取材に基づく事例研究(第1章)、中心人物へのインタビュー(第2章)、それらに基づいた一般化への考察(第3章)となっている。若干、先入観というか、結論ありきの取材じゃないの?という気配も感じなくもないけれど、そうであったとしても本書は充実していて、勉強になる。うちの職場的に言えば、卒論の材料がいっぱいだ(笑)。第1・2章で扱われている温泉地を列挙しておく。
阿寒湖温泉(北海道)、知床ウトロ温泉(北海道)、別府温泉(大分)、赤倉温泉(新潟)、野沢温泉(長野)、湯布院温泉(大分)、
第3章「温泉地の新しい社会的意義を求めて」がとてもうちの職場っぽい(笑)。第1・2章の豊富な事例・取材を総合し、かつ、他のデータや研究例も援用しつつ、論を展開している。地域再生の「研究」とはこういうものなのだなという(良い)典型例なのかなと思われた。ただ、やや著者の思い入れが強く出過ぎている感があるというか、冗長な気もするし、その割には当たり前のことしか言っていないような気もしなくはないが‥‥。他の研究例を援用しているのは非常に良いのだけれど、なんとなく、それぞれの研究例の上っ面しか使っていないような、あるいはその研究例のネタ本、ナナメ読みしかしてないんじゃないの?と勘ぐりたくなるような、そんな印象を受けた。僕の勝手な印象でしかないけれど。専門書と呼べる程度の充実した調査報告ではあるけれど、あくまでも学術書ではなくビジネス書なのかもしれない。
ところで、この第3章の中で、興味深かったことが2つ。
ひとつは「オピニオンリーダー調査」。「新し物好き」というやつかもしれないが、そういう人達が何を考えて観光旅行に出掛けているか、という調査である。かつては行き先選びの要素としては軽かった宿泊施設のクオリティが重視されるようになったという主張をデータで裏付ける試みであり、面白い。「オピニオンリーダーをどうやって選ぶのか(=どう定義するのか)」も含めて面白い。
もう一つ、非常に印象に残ったのが次のコメント。
これからの観光は、地域全体の魅力が勝負。観光地づくりが、観光関連業者だけで完結するものではないことは既に共通認識となってきている。そのためもあり観光地の活性化というと、「観光地づくりはまちづくりと同じ」「住んで良いところが訪れて良いところ」といったスローガン的目標が掲げられ、地域一体での取組みが謳われる。いかにも聞こえのよいこのフレーズ……。
しかし、なぜ地域一体なのか。
(中略)あらためて事例を振り返ってみよう。確かに、観光業者が住民として地域に関わり、観光関係者以外の住民と連携しながら、地域一体となった新しい魅力づくりに向けた動きが増えている。(中略)
それらの小さな動きがきっかけとなり、結果的に、温泉地をまとめる力、魅力的な動きになっていった。だれも最初から地域一体をめざしていたわけではない。結果的にでき上がってきた「地域一体」を見て、それを真似る地域づくりは危うい。(強調は引用者)
そうそう!「地域住民といっしょに」と言いながら地域住民は置いてけぼり、そんなんで住民が付いてくると思ってるの?というような話がよくあるように僕は感じているのだけれど、その違和感をうまく言い当ててくれている。