絵とき ゾウの時間とネズミの時間(本川達雄/あべ弘士)
- 著者:本川達雄(文)、あべ弘士(絵)
- 単行本: 40ページ
- 出版社: 福音館書店 (1994/4/15)
- ISBN-10: 4834001938
- ISBN-13: 978-4834001938
- 発売日: 1994/4/15
- 商品パッケージの寸法: 25.2 x 19.2 x 1 cm
- おすすめ度:★★★★☆
これは面白い。
本書は、文担当の本川達雄による同名の新書をベースに、子供向け絵本「たくさんのふしぎ 傑作集」シリーズとして作られたものだと思われる。絵はあの旭山動物園飼育係を20年務めたというあべ弘士が担当している。我が家の子どもたちの暇つぶしのために図書館で借りてきていた数冊の絵本の中にまぎれていたのを読んでみた。
特に「つかみ」が秀逸。小人の国に身長12倍の巨人・ガリバーが出現!巨人の食べる量は体積即ち身長の3乗に比例するのか?エネルギー消費に着目しは体表面積即ち身長の2乗に比例するのか?…科学の感覚がある人をもきちんと「釣る」仕掛けと言えよう(ちなみに、このつかみは「絵とき」版オリジナルで、原著には無い)。
内容を簡単にまとめると、小さい動物は鼓動も呼吸も早い(速い)が、寿命も短い。体重1kg当たりで換算すれば、ほとんどの動物は一生に食べる量も同じ。鼓動の総回数もほぼ同じ程度の回数でどの動物も寿命を迎える。だから
動物たちには、それぞれにちがった自分の時間がある。
それぞれの動物は、
それぞれの時間の中で生きている。
僕の率直な感想としては、最後の最後についているおまけコーナー「ナマケモノのうた」が邪魔。内容的には、「みんな同じだと言ったけど例外もあるよ」という例外の代表としてナマケモノが取り上げられているのだが、全くの蛇足。まぁ、作者は動物生理学の専門家だが、生き物を扱う領域では「例外」が重要なのかもしれないし、だから省略できなかったのかもしれない。ただ、物理屋としては、例外はあくまでも例外で、美しいセオリーはそのままその純粋さを、「不純物」の話をせずに見せて欲しかった。
ところで本書を取り上げたのは、別によくできてるからではない。実際、あべ氏による絵は、その画風もとても良いけれど、別に「絵とき」と言うほど解説に役立ってるわけでもないし、むしろ恣意的なイメージ操作という意味ではやり過ぎとも言えよう(絵本である以上、仕方ないことだけど)。ポイントは、内容の「量」である。上で述べた通り、本書はもともと230ページの新書(中公新書)として刊行されたものである(読まねばならないと思いつつ未読である…ははは)。おそらく、その元ネタの新書を通読しても、この絵本を読んでも、一般の人々(例えば、科学に職業的に深く関わりを持たない人々)にとっては、読後に残る新たな知識というか知恵の量はさほど変わらないんじゃないだろうか。僕はプレゼンでは「何を覚えて帰って欲しいのか」をはっきりさせることが重要で、「持ち時間30分当たり1文だけしか持ち帰ってもらえない」と言っている。まさに、この絵本はそういうことを体現しているんじゃないか…と思ったのだ。最後の「ナマケモノ」の例外話が蛇足だというのも同じ。ひょっとすると、僕たちが一般向けに話す時の「情報量」も、この「絵とき」を超えてはいけないんじゃないだろうか…? そうかもしれない…というより、おそらくそうなのだろうと思うが、一つ、「科学者が語る」ときに守らねばならないことは、ことばによる解説情報でない「絵によるイメージ操作」は、絵本ほど強くてはいけないということだろう。
……まぁ、原著を読んでから言え、っちゅう話なんだけども(^^;