大学の話をしましょうか―最高学府のデバイスとポテンシャル(森博嗣)

大学の話をしましょうか―最高学府のデバイスとポテンシャル (中公新書ラクレ)

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  • 森 博嗣 (著)
  • 価格: ¥ 756
  • 新書: 187ページ
  • 出版社: 中央公論新社 (2005/10)
  • ISBN-10: 4121501950
  • ISBN-13: 978-4121501950
  • 発売日: 2005/10
  • おすすめ度: ★★★★★


これでもかというぐらい森博嗣、である。

森博嗣の作品は、実は「すベてがFになる」しか読んだことはない。しかし、数年前、一時期、WEBダ・ヴィンチの企画で、エッセイブログ『MORI LOG ACADEMY』を書いていたのに出会い、あまりの面白さに「大ファン」になってしまった。ただ、森博嗣という「小説家」の作品に対してのファンではないので、「森博嗣の大ファンだ」と声高に言っていいのかどうかよくわからない。

さてその森博嗣であるが、知らない人のために少し紹介しておくと、この人は某国立大学工学部の教員助教授…今で言う准教授)だった人である。現役教員時代から「ビジネスのため」に、大学教員のままでも可能な「副業」として小説を書き始めたという異色の作家である。現在は辞職しているらしい。本書で触れられているが、大学教員の給料の10倍を小説で稼げるようになって、単調増加する雑務に追われるばかりで「大学」という職場の魅力である自由な研究時間が取れないのであれば、そりゃあ辞めるよね。

インタビューに基づいたQ&A形式で語られる「大学論とその周辺」である。実質的にはインタビューというより座談会だったようで、系統だった「Q」になっておらず、何度も同じことを尋ねているなど、残念な仕上がりになっているが、森博嗣らしい語り口が爆発している。本当の「理系なものの見方」を見せつけてくれる。みんなが思う「理系」は、単に「自分じゃない人」なだけで、文系的センスや芸術的感性と「理系な見方」は少しも矛盾しないことがよくわかるはずだ。むしろ、純粋な子ども心を忘れないこと、なのかもしれない。目の前のことを「素直に見る」ことがその本質かもしれない。僕たちの目は先入観で汚れ過ぎているのかもしれない。随所に光る森博嗣の「目」が、「当たり前」をえぐり出してくれる。いくつか例を挙げてみると…

ちゃんと働いているけれど、他人に迷惑をかけている人よりは、働かないでも、周囲に迷惑をかけない人の方が、僕は良い状態だと思います。

(ペーパーテストで測定可能な)「学力」に関しては低下していることは事実でしょう。それは、しかし、「ゆとり教育」という謳い文句で、ずっと邁進してきた結果であって、(中略)今さら、低下していると目くじらをたてる方がどうかしているように思います。

(敬語は)適切に使えなくても、敬意を示そうとしていることの方が重要です。きちんとした言葉遣いをしていても、全然気持ちが籠っていないよりは、ずっと良い状況だと思います。

ただ、「家庭は無条件に良いものだ。すべてを解決する愛の場だ」と考えることは、もうほとんど宗教の世界だと思います。

そう、森博嗣は別に特別な事を言ってるわけじゃなくて、「当たり前」のことしか言っていないのである。さっき「理系な」と表現したが、こういうものの見方は別に理系人間だから持っているのではないことは、経営分野の先生方を見ていればわかるだろう。常にこういう目を持ち続けたいと思う。

第二章を読んでくれると、僕たちの実態が少しわかるかもしれない。第一章は学生について語っているが、この第二章は大学について語っている。大学論はたいてい、社会から見た「どんな学生を輩出すべきか」または学生視点の「どんな大学ライフを送るか」または高等教育や教養主義から見た「どんなことを大学の授業は提供するべきか」、これらの3つでしかないように僕には思われる。本書はこのいずれでもない。大学という「環境」はどういうところか、大学という「組織」はどういうところか、といったような話題である。この辺の話は、普段から研究室に来て僕たち教員と話をしている学生なら、ある程度は知っている(あるいは見て「わかっている」)だろうが、あまり姿を見ない人々には新鮮かもしれない。

他にも名言がてんこ盛りである。うちの学生達は、たぶん、これまで、こういうものの見方をする人とはあまり接点がなかったんじゃないかと思うので、世界を広げるためにも、自分の居る場所を理解するためにも、ぜひ早いうちに読んで欲しいと思う。薄い新書で肩の力の脱けた語り口なので、疲れる間もなくあっと言う間に読めるはず。特に、就活を始めた新4回生のみんなは、いままでの学生生活を振り返り、意味付けている真っ最中だと思うので、得るものがたくさんあるはずだ。

先日、本書を含め、他にも数冊、森博嗣エッセイ系の本を買った。この勢い+先日からの「実用/専門書じゃなくて小説読んで人間になろうキャンペーン」の一環で、映画にもなった「スカイ・クロラ」シリーズを読もうという気になった。そこで「スカイ・クロラ」を購入したが、シリーズ第1巻は「ナ・バ・テア」であることをついさっき知った。とりあえず1作だけ読んでおこうかなと思っていたんだけど、この際だからシリーズ全6巻読破しようかという気になっている。