オーディエンス・マネジメント(ゲイ・ユンバーグ著、米津健一訳)

オーディエンス・マネジメント

book image

  • ゲイ・ユンバーグ (著), 滝沢敦 (監修), 米津健一 (翻訳)
  • 出版社: スクリプト・マヌーヴァ (2012/8/11)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 499065711X
  • ISBN-13: 978-4990657116
  • 発売日: 2012/8/11
  • おすすめ度: ★★★☆☆

洋の東西を問わず、だいたい考えることは同じなんだな…あるいは、マジックを演ずる上での悩みというのは、洋の東西を問わないんだな、と苦笑せざるを得なかった(^^;

本書は、パフォーマンスにおけるお客様audienceをどうコントロールするか、あるいはそのようなコントロールをするためにどう演者自身をマネジメントするか、について書かれた本である。著者・訳者は、パフォーマンス一般に役立つことを書いていると言っていて、確かにそれはそうなのだけれど、事例があまりにもマジックに偏り過ぎていて、非マジックなパフォーマーにはピンと来づらいのではなかろうか(その点でおすすめ度は★を控えめにした)。マジックをやっているけれど、他のこともやるよ、という僕には「あるある」過ぎて笑えるぐらいであった。

「心あるマジシャン」と僕が勝手に呼んでいるマジシャンの方々は、プロの方々であれアマチュア(マニア)であれ、言葉は違うけれど、同じような事をおっしゃっている。芯の部分はだいたい同じで、「お客様に正しく不思議を伝えることが重要」という、(言葉にしてしまうと)とても単純な(ように見える)ことだ。だから、「言葉の上では単純」であっても、具体的な項目を書き出すとかなりたくさんの項目になるんだなぁ、というのが第一感。

実際には、本書で列挙・解説されてることのリストを持ち歩いてチェックしながら準備〜本番してるわけじゃなく、その場その場の瞬時の判断の積み重ねでしかない(当たり前だ)。だから、いかに普段からこういうことを考え、心がけて生活しているかという、心掛けの問題に帰着する。とは言え、マジックやる人は多かれ少なかれ、四六時中マジックのことを考えているものだから。(えっ?違うの??)

とてもいいことがたくさん書いてある。普段僕も同じようなことを考えているし、プロの方々とお話する機会があっても同じような話になるけれど、やはり同じことであっても異なる言葉遣いで語られると、多角的に見える。訳もとても自然で読みやすい。

ただし、本書の場合、ひとつ注意点があるように思う。「お客様にどんな体験をして欲しいのか」を中心に考えよ、としているが、これはおそらくミスリーディング。いくつかのポイントがあって、それをこういう表現にまとめたのだろうけど、なんだか抽象的な、あるいはご大層な指針のような文言を金科玉条のように抱きかかえておくのが大事なように聞こえる。たぶん、そうじゃなくて、具体的にお客様視点で考えなさいっていうものすごく具体的な話。読み進めていけばわかるけれど、本書は上記のような抽象的な「心構え」だけでなく、その具体的な「現れ」もかなり重視している。

要するに、何がどう不思議で、どこを見て欲しいのか、きちんと伝える、という、コミュニケーションの問題とも言える。

印象に残ったというか、考えさせられるのが、演技の終わり方について。

お辞儀をしたり「ありがとう!」と言うことで拍手をもらおうとしてはならない。理想的な順番は、観客が拍手し、演者は自分を正しく評価してくれたことに感動し、感謝の意を伝えようとして、その気持ちを表現する、である。観客に拍手を促す方法はたくさんあるので、いろいろと研究してみよう。(p.110 「観客との関係を深める10の近道」より)

演技終了時に着地感、収束感をつけることの重要性はわかってるが、ではどうすればいいのか?お客様が気持ちよく終わることがマジック・パフォーマンスの成否の8割を占めているとさえ僕は考えているのだけれど…これは本当に難しい。

思いっきり大ナタをふるって本書の主張をまとめると

  • 顧客視点で考えなさい
  • お客様を巻き込め
  • 準備を怠るな
始めの2つに関して、キーワードは「笑顔」である。笑顔を絶やさないのはとても大事。そこで本書に挙げられた以下の課題をこれから意識してみようと思う:

ひそかに試してみよう

次のような知らない人に出会う時、その人を笑顔にさせてみよう。

  • スーパーのレジ係
  • バスのドライバー
  • レストランのウエイトレス
  • 清掃人
  • バスで隣り合った婦人

その他、面識が無い人などを笑顔にさせる練習をしてみよう。

まぁ、欧米と違って日本では「変質者呼ばわりされない程度で」ではあるけれども(^^;

…というところで、普通ならブックレビューを終えるのだが、本書を最後まで…つまり「訳者あとがき」まで読んで驚いた事があったので記念に書いておく。訳者あとがきで、名古屋のマジックバーふしぎに勤務していた時に著者が来店して云々、と本書の翻訳のきっかけについて述べているくだりを読んで、あっ!…この「米津」さんって人、僕が京都時代によく遊びに行ったマジックバー「i&i」に出演されていたマジシャン「よねづ」さんじゃない!?と。なぜ気付いたのかというと、京都を離れて数年経ち、今の職場に来てしばらくして名古屋に出張した時に、そのマジックバー「ふしぎ」さんにお邪魔した事があって、その時にまさかの再会…僕としては「この人、確か京都にいたよねづさんじゃないかな…」と思いながらパフォーマンスを見ていて、ショーを終えてからご本人から「以前京都で会いましたよね?」「やっぱりそうですよね!いやーここでお会いするとは思いませんでしたよはははは」「いやこちらこそあはははは」とお酒が進んだ…、ということがあったのだ。そんなわけで、この米津さんってあの「よねづさん」じゃないの?と思わずツイートしたところ、「その彼でございます(^^)。」と、まさかのスクリプト・マヌーヴァさん(本書の出版社)Twitterアカウントからのmentionが飛んで来たのであった。

いやー、米津さん、元気にしてるかなー(下のお名前「健一」っていうんだ…)…久しぶりにあのスプレッドパス見たいなぁ…ほんと、全く思いも寄らない形での、二度目の「再会」となった。