魔術師たちと蠱惑のテーブル AからKまで13のトリックストーリー(ボナ植木)

魔術師たちと蠱惑のテーブル AからKまで13のトリックストーリー

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  • ボナ 植木 (著)
  • 価格:¥1,575
  • 単行本: 279ページ
  • 出版社: 武田ランダムハウスジャパン
  • ISBN-10: 4270006978
  • ISBN-13: 978-4270006979
  • 発売日: 2012/6/26
  • おすすめ度:★★★☆☆


この演出・構成は本当に素晴らしい。

あの「あったまぐるぐる」で(世界的に)有名なマジシャン「ナポレオンズ」の、「手品やるほうの人」=ボナ植木師が初めて書き下ろした小説である。

サブタイトルにあるように、13編の短編小説に、プロローグとエピローグがついている。マジックショーを長年務めているだけあって、「楽しませる」ことの本質をよくわかっているのだろうなぁ、と思った。また、著者ご自身が江戸っ子であるせいなのか、とーっても「粋」な演出がそこかしこにちりばめられている。

一つ一つの短編は独立していて、それぞれ、マジックに関連した、(多くは)「粋」な人情話である(中には、最多出場を誇る「笑点」のような「座布団もってっちゃってくれー」な趣きのものもあるけど…)。全ての短編でタイトルにある「蠱惑のテーブル」が登場する。各短編は、そのように独立してはいるのだが、少しずつオーバーラップしていて、プロローグとエピローグで全てつながる。…とだけ書くと、「近年よく見かけるやつだよね」となってしまうのだが、なんというのか、上手い、あるいはマジック的に言えば「巧い」のである。

マジックをやり始めて少し経つと、自分なりの「自称・オリジナル」な作品を作りたくなって来る。ところが、思いつくことは、プロットにせよ手法にせよ、まぁ、まず間違いなく、先人たちが既にやってしまったことである。実は、マジックを作る時に一番難しいのは、「現象」を作ること。不思議を達成する手法は数限りなくあるのだが、肝心の、「新しい不思議」を作るのが、とっても難しいのである。なんというか、プロマジシャンにしか書けない小説でそれをやってくれたような、そんな読後感を覚えた。

なお、ネタも満載である。例えば、登場人物たちや演じられる作品は、それなりにハマっている手品人であればモデルとなる実在の人物や元ネタがピンと浮かんでニヤリとさせられる。また、著者はジャズ好きとしても知られ、ジャズシンガーとしても活動しているのだが、各短編には「推奨BGM」としてジャズの名演が添えられているのが面白いし、多くの短編のタイトルがその「推奨BGM」のタイトルに引っ掛けてあるってのがまた心憎い。ニクイネー!!

一つ大きな不満がある。演出や構成が素晴らしかっただけに、文章そのもの、文体そのものが、いつも更新されている著者ご自身のWeb日記とあまり変わらない感じがして、もったいない思いが残った。特に、ほとんどの文で改行されているというのか、段落が無いというのか、そういうネット的な文体がほとんどだったのが残念に思う。もっと重々しい文体だったり、もっと一気にまくしたてるような文体だったり…なーんていうことも、これだけ多くの短編があるのだから、やって欲しかったなぁ。

最後におすすめ度であるが、僕はアマチュアとは言えマジシャンでもあるので、とても面白く、のめり込んで読むことができたが、非手品人の方々が読んでどうかというと、よくわからない。ピンとこないかもしれない。なので、少し辛口かなーとは思うけれど、★3つにしておいた。