ウエハースの椅子(江國香織)
- 著: 江國香織
- 文庫: 205ページ
- 出版社: 角川春樹事務所 (2004/05)
- ISBN-10: 4758431027
- ISBN-13: 978-4758431026
- 発売日: 2004/05(※初出:2001/02)
- 価格: ¥ 520
- オススメ度: ★★★☆☆
先日、僕が小説を読んで、僕じゃない人生を仮想体験して、もっともっと傷付かなければいけないんだと最近思う
と書いたのを読んだよめさんがさっそく「これを読め」と書棚から持って来た課題図書(?)である。
巻末の解説に、興味深い表現があった。曰く、男性作家が描くような「氷点下から沸点までの大きな温度変化をダイナミックに描く世界」に対して、女性作家は、「せいぜい35度から38度くらいの体温の変化を細かく鮮やかに描く」のだそうだ。本書はまさにそんな、微妙なゆらぎというか、水紋のような小説だった。
もう1つ、解説に、僕がとても納得した表現があった。本書には、「ストーリーは……ない……といっていいと思う」…同感である。最後にちょっとしたイベントがあるけれど、子供の頃の想い出と、現在「恋人」との不倫愛に完全に耽溺し、満たされてしまっている「私」の生活と心の描写が淡々と入り乱れた、絶妙な温度にかろうじて保たれたぬるま湯のような世界が果てしなく続くかのような筆致の中では、特にストーリー性を持たせるようなイベントにはなっていない。結末もまた、そのイベントがイベントになり得ない耽溺のぬるま湯の永遠を描いている。…ように思えた。
よめさん曰く、不倫というのは「人生設計だとかいうようなことを考えずに済む『期限付き』だからこそ純粋に燃え上がることができる」のだそうだ…知らんけど(笑)。「私」は「恋人」に何もかも包まれ許されていることに「閉じ込められ」、その絶望の中に生き、満足している。この「私」と「恋人」に「期限」が来たとき、江國香織はどう描くのだろう?