水質監視における政治的バイアス(Beck et al., 2010)についての論文紹介記事和訳

水質監視における政治的バイアスについての論文(Water Resources Research, doi:10.1029/2009WR009065, 2010)の紹介記事(Eos, Vol. 92, No. 8, 22 February 2011)の和訳


国会議員が科学情報を集めようと呼びかけるときには、その回答には可能な限り最も厳密なデータに基づいていることを期待する。しかし広範囲のモニタリング・ネットワークからもたらされる情報の場合—ヨーロッパ各国をまたがっての水質調査など—には、結果は科学だけでなく政治的事情に基づいている可能性がある。この種の初めての研究として、Beck et al.は水質調査の観測点の選定が環境的ニーズからではなくむしろ経済的・政治的圧力の影響をどのように受けている可能性があるのかを明らかにするため統計的手法を用いて、1965年から2004年までのヨーロッパの水質モニタリングシステムの発達の過程を把握しようと試みた。

いくつかのトレンドが推測された:観測点数は収入、人口密度、民主度とともに増加し、全体としては時間とともに増加した。河川が1国内にある場合よりも国境をまたいで流れる場合は観測点は増加した。しかしながら、別のトレンドは著者達の想定とは逆だった:EUのメンバーであることがモニタリングの密度が低いことと正の相関があった。著者らは、EUの初期からのメンバーではない国々は近隣諸国のご機嫌を取るために調査プログラムを増やしている一方、他の国々はそのようなプレッシャーは感じていないのかもしれない、と推測した。

EU内の水質監視地点の選択に政治的バイアスが掛かっているというこの発見は特に重要である。というのも、EUはずっとモニタリングに基準を課すことを周到に推進してきたからだ。著者らはEUで見られる全てのバイアスはより規制の少ない地域では拡大されるだけだろうと推測している。(Water Resources Research, doi:10.1029/2009WR009065, 2010)

いま起こっている福島第一原発事故由来の水質汚濁の件とごっちゃにしてはいけない。全然関係ない話。