中性子が拓く地球・惑星科学, 鍵, JGL, Vol.6, No.1, 9-11, 2010

中性子ビーム

高温高圧条件に於ける物質中の水素原子の位置決定に向いている。理由は、

  • 物質進入長が深い
  • 軽元素からの散乱強度が強い

地球深部のH2O?

  • 地球を作った始源物質中のH2Oの量=2wt%
    • 隕石中のH2O含有量から推測 byリングウッド
  • 地球表面積の70%を覆う海水の質量を地球の質量で割れば、地球全体の含水量は0.02wt%

2桁の差→地球内部にH2Oが閉じ込められている?

  • 地球深部を構成する高密度ケイ酸塩に、無視できない量の水素(水)が熱力学的に安定な状態で取り込まれる
    • 高温高圧実験より。
  • olivineの高圧相には最大で2-3wt%の水が取り込まれる
  • 地球深部を構成する鉱物に水素(水)が取り込まれると、高圧相の相転移境界、鉱物の弾性的性質、変形挙動などが大きく変化する
    • これらの変化が何故起こるのかは現時点では分からない
      • 結晶構造中のどこに水素があるかわからないから
  • 氷には少なくとも14以上の異なる相が存在
    • 例えば氷XI相は結晶全体が電位を持つ強誘電体
  • 惑星形成の初期段階に強誘電体の氷が存在すれば、氷粒子間の強いクーロン引力により惑星形成のタイムスケールも大きく変わったかもしれない。
    • 氷の結晶の中で水素原子の位置を精密に知らなければ詳しいことがわからない
      • 地球・惑星の深部の温度圧力条件で、物質中の水素原子の位置の精密決定をどうする?難しいぞ?

なぜ中性子が必要か?

  • X線は電磁波であり、振動する電場成分が物質中の電子と相互作用する
  • 従ってX線は電子数の多い原子番号の大きな元素とより強く相互作用する
    • ということは、軽元素とは相互作用をしにくいため、見るには不向きである
      • 相互作用(回折)するから見える
    • しかも水素は最軽量=相互作用は極めて小さい
  • 中性子は電子とは相互作用せず、原子核と相互作用する
    • 原子核は原子の大きさと比して5桁ほど小さい
    • 物質への中性子の透過率は高い
      • 逆に言えば相互作用が小さいので、強い中性子源が必要
    • 相互作用の強さは原子番号に依存しないが、質量数によって異なる
      • 同一の原子であっても同位体によって変わる
  • その他の中性子ビームの特徴
    • 深い物質進入長
    • 非弾性散乱の観測が容易
    • 強い磁気散乱

茨城県東海村の大強度陽子加速器施設J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)が建設され、世界最高レベルの強度を持つパルス中性子研究施設が立ち上がった。(以下自慢話なので略)