枯れ草は黄砂発生にどう影響するか?: 日蒙米協働プロジェクトDUVEX, 篠田, JGL, Vol.6, No.1, 5-7, 2010

Introduction

  • 黄砂=東アジア大陸内部からの風送ダスト
  • 黄砂飛来頻度は2000年以降高い傾向にあり、飛来地域が拡大
  • 多くの場合、黄砂は温帯低気圧寒冷前線に伴った嵐によって発生
  • 2008年5月モンゴル東部で雪を伴う砂塵嵐で観測史上最大規模の人畜への被害
    • 死者52人、家畜死約28万頭
      • 人の死因の多くは凍死
      • 家畜も含め、砂塵+雪の嵐でロスト・ポジション→ゲル(モンゴルの移動式テント)に戻れず

黄砂と臨界風速

  • 黄砂が日本に飛来するまでの過程は、発生、輸送、沈着に大別される
  • チームはゴビ砂漠の北、Bayan Unjuulにて集中的にあれこれ調査・観測
  • モンゴルに於いて春の黄砂発生に関わる要因は、冬の積雪・土壌凍結、春の土壌水分・枯れ草、大規模な気象など
  • 家畜による採食の影響も要考慮
    • 過度の放牧は草原の劣化(砂漠化)を引き起こし、黄砂発生を誘発
  • 黄砂の発生しやすさ=黄砂が舞い上がり始める「臨界風速」で指標化
    • 臨界風速大=強い風が吹いてやっと舞い上がる
    • 臨界風速小=少しの風でも舞い上がる
  • 臨界風速は春に極小
    • 春に大きく変化する地表面状態が重要

観測は2008年春

  • 地表面は、主に枯れ草による植被率がわずか7.2%だったにも関わらず、臨界風速は11.9m/sとゴビ砂漠の裸地のこれまでの観測例よりも大きかった(黄砂が舞い上がりにくかった)
  • 研究総括
    • 植被が約20%以下の砂漠から草原にかけての地域でのみ、植生変動が黄砂発生に影響
    • 植被がそれ以上となる地域では黄砂はほとんど発生しない

気候メモリ

  • 気候メモリとは「大気の物理量(気温、水蒸気量、降水量等)における季節変化成分あるいは経年変化成分の偏差を、その発生以降、引き継ぎ、保持する地球表層における大気以外のサブシステムの働き」
  • キーになるのは前年の夏の残渣である枯れ草、冬の間凍結していた土壌水分、融雪水(モンゴル平均で数cmの積雪深)
    • 枯れ草の影響
    • 前年に雨が多い→春に草が多くなる→臨界風速大
    • 種の変動
    • 通常、多年生のイネ科は干ばつなどの擾乱に対して安定性大
      • 草原生態系を縁の下で支えている
    • 降水量増加→非嗜好性の一年生双子葉植物が優勢、残渣も多くなる=植物種は採食という過程を経て残渣の量に影響し、最終的には黄砂発生に影響する
      • 「非嗜好性」=家畜が好んでは採食しない

黄砂ハザードマップ

  • 地表面の空間分布に関する広域的な情報を用いて、黄砂発生の臨界風速の分布図=黄砂ハザードマップを作成中
    • 試作品は Kimura and Shinoda (2010)を参照
  • ハザードマップと遊牧社会の脆弱性に関する情報とを組み合わせて、黄砂リスクの評価が可能に
    • 黄砂被害の軽減
    • 現場における砂漠化防止事業の基礎資料に