もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら(岩崎夏海)

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

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  • 岩崎 夏海 (著)
  • 単行本: 272ページ
  • 出版社: ダイヤモンド社 (2009/12/4)
  • ISBN-10: 4478012032
  • ISBN-13: 978-4478012031
  • 発売日: 2009/12/4
  • 価格: ¥1,680
  • おすすめ度:★★★★★?


得てして、経営な話を聞いていると、「‥‥で?」と問い返したいような言説に出会う。その、ご大層な、「ご高説ごもっとも」な話を実際に適用するとどうなるのか?という単純かつ深遠なテーマ、問題提起に対して、明解に答えたのが本書と言えるのではないか。

具体的に言うと、「経営」について書かれた本は、ほとんどがその著者の自慢話であり、他の人へ応用できるような一般性を持たない。その「経営」というものを性質を明らかにしようとする学問(だよね?)である「経営学」は、「経営」の持つ一般的性質を抽出して、抽象化、あるいは分析して総合することはやっているように見えるのだが、残念ながらその一般的性質というか「法則のようなもの」を実際の経営に適用すると何が言えるのか、については寡聞にして殆ど見たことがないのである。その意味で、「経営学の教科書」に書かれた「一般性を持った経営学の法則」を使ってみたらどうなるか?という思考実験が、仮想体験が、本書で行われた、と見ることができる。

さて本書は通称「もしドラ」、「発売からわずか6ヶ月で驚異の100万部突破!」という触れ込みの、現在も勢いはとどまるところを知らず、という大ヒット作である。どれだけ売れているかと言うと、Googleの検索窓に「もし」と2文字入れてみるといい。検索ワード候補の筆頭は「もしドラ」である。

なお内容はタイトル通りである。以上。(笑)

ドラッカーの「マネジメント」は、言わずと知れたビジネスの、マネジメントの名著である‥‥とされている。もちろん、俺の本棚にもある。あと足りないのはたった1つ、それを手に取って読むことだけだ(笑)

ちなみに、寡聞にして本書より長い書籍タイトルを知らない。楽曲名であれば、スターダスト・レビューの『ブラックペッパーのたっぷり効いた私の作ったオニオンスライス』が僕の知る限り最長である。また俺の知る最長の人名は、架空の人物であれば寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処やぶら小路のぶらこうじパイポパイポパイポシューリンガンシューリンガングーリンダイグーリンダイポンポコピーポンポコナーの長久命の長助であるが、実在の人物ではパブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピーン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソしか知らない。

それはさておき。

結果はともかく、その過程のストーリーに意味があるんだ、なんてのはよくあるのだが、この本の場合は、その「過程を読ませる」という部分が、他と一線を画している。いわば、感情移入させて「共体験」させカタルシスに至るストーリーではなくて、「理解による好奇心の充足」によってストーリーを読ませるのである。

喩えて言うなら‥‥通常の「感情移入による共体験」を普通の推理小説に喩えるなら、「もしドラ」は「刑事コロンボ古畑任三郎の心情を最初から最後まで隠さずリアルタイムに描く」小説なのである。たぶん。

意味不明だろうから、順を追って説明する。「刑事コロンボ古畑任三郎」が冒頭に犯行自体の種明かしをしているにもかかわらずミステリーたり得るゆえんは、そのコロンボ/古畑の「脳内にあることがら」がミステリーだからだ。そのミステリーを、ストーリーの展開と並行して展開して行くのである。コロンボ/古畑の思考とそれに基づく行動を隠さずに展開していけば、これはミステリーではなく、「おお、そんなことを考えるのか!」「では次の行動は?」と考えながら「好奇心のリアルタイムな充足」を読みながら得ることができるような小説になるのではないだろうか。「もしドラ」はそんな感じである。(‥‥ってこの喩えは伝わらないだろうなぁ)

本書では、

『マネジメント』には、こうあった。

‥‥というフレーズが頻出する。俺もそんな本に出会ってみたいものだ。‥‥いや、今までに、そんな本はいくつかあった。ゼミ生達には、そういう本と出会って欲しいものだと思う。ゼミではブックレビュー企画をやっているが、この企画が役立てるなら幸甚である。

とにかく、このライトな感覚にやられた感じである。不覚にも引きずり込まれ、2日で読んでしまった。「ちきしょーっ!そんなこと言いやがって、グレてやるーっ!(‥‥グレる方法わかんないけど)」というフレーズが、昔、俺の周りで(一瞬だけ)流行ったことがあった。それを借りれば、

「ちきしょーっ!ライトノベルもどきに楽しまされてしまったーっ!(‥‥ラノベ読んだこと無いけど)」