良いプレゼン 悪いプレゼン-わかりやすいプレゼンテーションのために(後藤文彦)

良いプレゼン悪いプレゼン―わかりやすいプレゼンテーションのために
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  • 後藤文彦(著)
  • 単行本: 123ページ
  • 出版社: カットシステム (2008/12)
  • ISBN-10: 4877832149
  • ISBN-13: 978-4877832148
  • 発売日: 2008/12
  • 価格: ¥ 1,680
  • おすすめ度: ★★★★☆


コンプレックスの克服から何かを身に付けたり、その末に何かのスペシャリストになったりすることがある。この著者も、「ことば」に対して(俺からすれば)過大、ないし被害者妄想としか思えないようなコンプレックスを抱いていた(いる?)ようで、それが本書を生んだ原動力のようだ。方言と「標準語」の関係について著者自身が抱いている/いたと言うコンプレックスが、独特の視点、というか「視座」を生んでいる。
本書はハウツー本なので、視座なんて言ってたらダメなのだが、とは言え、屋台骨というのか大黒柱というのか、全体を貫く何かが違うと、それがいろんなところに現れる。と言っても読後に本書のノウハウがしっくりくるかどうかと、読者が同じ「背骨」を持っているかどうかは、必ずしも一致する必要はない。というか、みんな違うのだから、しっくりくるところをつまみ食いすればいいんだ、と軽く考えるのがハウツー本を読む時のあり方だろう。のめり込むのも悪くないが、往々にして弊害も多い。

数あるプレゼンのノウハウの中で、本書は特に「プレゼンで話す時の言葉づかい」および「その言葉遣いであるための心の持ち方」にフォーカスしていて、例えばスライドの作り方、全体の構成のしかたなどはあまり触れられていない。アンバランスではあるが、それはある意味で、「本来のニーズ」にフィットしているようにも思う。というのも、プレゼンでみんなが悩むのは「どんなスライドを作ったらいいかわからない」「そもそも話が組み立てられない」というところなのだが、それは見かけの悩みであって、実際そんなものはどうにでもなることのほうが圧倒的に多い。というか、話すことを前提にできれば話は勝手に組み上がるしスライドも勝手にできてしまうのだが、「人前で話すこと」が身に付いていないから、話す現場の想像ができず、故にストーリーやスライドが作れないのだ‥‥というのが現時点での俺の結論である。

ちなみに俺が講義で解説しているプレゼン理論?は松田卓也氏の「プレゼン道入門」をベースにしているが、いくつか本書の主張と異なるポイントがある。中でも特に気になるのが、「漢語」とか「外来語」とかの、堅い言葉や一般に浸透しているかどうか微妙な言葉の扱いである。要するに、話し手・聞き手双方の語彙の豊かさ、ぶっちゃけて言えば教養のレベルが問われるポイントである。「話し言葉」の有用性にこだわる本書では、そのような語の使用を徹底的に排除する。耳にした時に一発でわかる単語でなければならない、本当に理解しているならそのような言葉こそ易しく言い換えられるはずだ、と主張する。本書がプレゼンで「話す」ことに集中しているからこそなのかもしれないが、確かに「話す」時にはその通りである。しかし、堅い言葉の持つ「一覧性」、特に漢字の「表意文字」としての威力をバカにしてはいけない。スライドでは漢語を使うことによって飛躍的に情報量を高めることが可能である。読めなくても、正確な意味がわからなくても、パッと見た瞬間になんとなく意味がわかるのである。場合によっては「図解」に匹敵することも多いとすら思う。スライドで堅い漢語を使うことが理解の障壁になるのは、漢語を使って「文章」を書いたときである。これは目で追って「読む」ことを客に強いるので、「読めないといけない」。これはつらい。
とか偉そうに言いながら、お前のプレゼンはどうなんだと問われると、うん、ちょっとどこか遠くに旅に出ようと思うんだ‥‥
極私的意見としては、主張することは近いのに、なぜかずっと違和感を感じる本であった。なぜだろう?‥‥いずれにせよ、おそらく多くの人にとって、読んで悪くない本ではある。