宇宙論入門(佐藤勝彦)

宇宙論入門―誕生から未来へ (岩波新書)
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  • 著者: 佐藤勝彦
  • 新書: 215ページ
  • 出版社: 岩波書店 (2008/11)
  • ISBN-10: 4004311616
  • ISBN-13: 978-4004311614
  • 発売日: 2008/11
  • おすすめ度: ★★☆☆☆


宇宙は、誕生直後に、「インフレーション」を経て一気に膨張した。インフレーションが「フッ」と止まって普通にイメージできる(?)ような膨張になった途端、これまた一気に熱エネルギーが解放されて灼熱の宇宙になった(狭義のビッグバン)‥‥というのが、どうやら現代的な宇宙誕生のシナリオである。もちろん、細かいところは諸説あるが。

その「インフレーション」説を世界で初めて提唱したのがこの本の著者、佐藤勝彦氏である。本書はその佐藤氏が書き下ろした、文字通り「宇宙論の入門書」である。

数式の出てこない入門書とは言え、本来の宇宙論一般相対性理論なしでは語れないわけで、それは即ち数学の、しかもかなり高等な数学の塊である。僕なんかとてもとても歯が立たない数学の化け物である。いくら平易な日本語で書かれていると言っても、本当の「ど初心者」が読んでも、おそらく何もわからないだろう。

幸運にも、僕は昨年の晩夏に、佐藤氏のセミナーを受講することができた。そのセミナーでは佐藤氏の人格者っぷりが遺憾なく発揮され、僕でもかなり理解することができた。と思う。たぶん。きっと。だといいなぁ。本書を読了したとき、「あのセミナーが無かったら、理解するのにはかなり苦労しただろうなぁ」と思った。それはこの本の書きっぷりがダメなのではなく、宇宙論がそもそも難解なのである。なんせ、インフレーションの源は「真空のエネルギー」なのである。なんのこっちゃー

じっくり腰を据えて読むなら楽しめるポイントというか、特色がいくつかある。1つは、タイムマシンに関する考察である。まぁ、こちらは「みんなが言うから仕方なくマジメに考えてみました」という、氏の真面目さの現れなのかな、ぐらいにしか思わないのだが、白眉は「宇宙の未来予想図」に関する議論である。本書中で述べられている通り、過去の宇宙は遠方の観測等々によりさかのぼって検証することができるが、未来の予想をしたところで検証のしようもなく、そんな研究をしたところで業績にもならないから誰もやらない。しかし、知りたい!‥‥氏によれば、1000億年後には我々の銀河系からは他の銀河が見えなくなり(=孤立する)、人類が生きているとしても、とても宇宙が膨張しているとは思えなくなる時代がやってくる。宇宙はそのうちブラックホールだらけになるが、10100年後にはそれらのブラックホールも蒸発して消えてなくなっていく。そのまま宇宙は何も起こることのない死の空間になる。‥‥というのが1つのシナリオ(宇宙が膨張し続けるモデルの1つ)

そして最後に話題は「宇宙」は1つではなくたくさん存在する(と仮定していいじゃないかという)という「マルチバース」説や、「この宇宙(というか現実)があまりに上手くでき過ぎているように見えるのは我々がここに存在するからこそである」という「人間原理」にまで及ぶ。この手の話はトンデモ科学大好き人間が飛びついてくる話なので、読解には注意が必要である。

完全に理解するには結局のところ相対性理論や量子重力理論を学ばなくてはいけないのだが、「正しく読む」ことは、それをせずとも、本書ならば可能である。真摯な佐藤氏の書きっぷりに、真摯な態度で臨むことだ。正しく読んだ結果いろいろなことが身に付くだろうが、1つ言えるのは、宇宙を作るのに神は必要ないだろう、ということだと思った。

最後に「おすすめ度」だが、難しいところ。なぜなら、はっきり言って、この本の易しい記述、というより「優しい記述」が仇になりかねない気がする。本質的に超難解なことが書いてあるのだが、「優しさ」のために、簡単に「自分なりに納得」できてしまうので、トンデモ科学の格好のエサになりそうなのだ。ある程度の素養が無ければかえって危ない、という意味で、★2つとさせてもらった。