「カルサイト-アラゴナイト問題」に挑む〜分子生物学で迫る生体鉱物学最大の難問〜, 遠藤, JGL, Vol. 4, No. 4, 2008

こんなこと全然知らなかったが、かなりアツい話題である。「生体鉱物学」なんてジャンルも初めて聞いた。「問題」からして興味津々だ。こんな「問題」が存在することを知っただけでも読んだ価値があった。だから学問って面白いんだよなぁ。

「カルサイト-アラゴナイト問題」


貝殻やサンゴなど生物が作る鉱物の多くは炭酸カルシウムからできている。同じ炭酸カルシウムの成分でも、結晶構造の違いからカルサイト(方解石)とアラゴナイト(アラレ石)という二つの結晶多形が区別される。
ふむふむ。

アラゴナイトはカルサイトよりも密度が高く、高圧下でのみ安定である。それにもかかわらず、生物は常温常圧下でアラゴナイトを作る。また、どちらの結晶形を取るかは生物種ごとに決まっている。例えば、ウニの棘はカルサイトだが、アサリの貝殻や真珠やサンゴはアラゴナイトだ。
言われてみれば確かに不思議だ。

さらに、同一の固体内でカルサイトとアラゴナイトが隣接して作られる場合もある。例えば、カキやホタテガイの貝殻は大部分カルサイトだが、貝柱がつくところはアラゴナイトである。また、真珠貝として知られるアコヤガイの貝殻も、外側の稜柱層はカルサイトだが、内側の真珠層はアラゴナイトだ。不思議である。なぜだろう。
本当だ。不思議である。なぜだろう。
19世紀初頭まで遡る、200年来の未解決問題らしい。この問題の要約は、

  1. 生物はカルサイトではなく、条件的に作りにくいはずのアラゴナイトをいかにして作るのか
  2. カルサイトとアラゴナイトを生物はどうやって作り分けているのか

となる。

(1)への解答

  1. Mg2+がカルサイトの結晶成長を阻害することがわかった(2000年頃の研究)
    • 結晶中にMg2+が不純物として取り込まれてカルサイトの溶解度を上げるため
  2. 逆にアラゴナイトにはイオン半径の都合上Mg2+が入らず、溶解度が変化しない
  3. 現在の海ではMg2+が多く存在する

ということは、海中では結晶形成と溶解の速度論的な兼ね合いから、アラゴナイトのほうができてしまう、という理屈らしい。

(2)はどうやら遺伝的な制御らしい

アミノ酸配列が解明されたアコヤガイの貝殻基質タンパク質の一つ、「アスペイン(aspein)」があれば、結晶形成時にカルサイト形成が誘導されることが実験的に判明した。

  • 局所的に液中のイオン濃度を変化させて(Mg/Ca比を低下させて)速度論的効果で誘導している可能性が高い

以上、細かい「詰め」は残されるものの、かなり解決に近づいてきた、ということらしい。でもこれが解決しても、今度は地球表層環境(特に海洋中のイオン濃度)の進化と、貝殻の進化との関係の解明、という大問題があるよ、まだまだ面白いことが尽きないね、というお話。