van de Hulst, "Light Scattering by Small Prticles", §2.1

2.1 散乱分布図と位相関数
最初の章(1.2節)で述べた我々のテーマに課せられた制約条件に従って、任意のサイズ・形状の単一の粒子が遠くから照らされている状況を考えよう。その粒子から離れたところから見た散乱光の性質について考えてみる。他の粒子との間隔が十分に開いており離れたところでの散乱場が形成されるということを仮定していることになる(独立性の仮定。1.21節参照)。

最も重要なのは散乱光の放射強度 intensity である。強度Iは単位面積当たりのエネルギーフラックスを意味し、cgs単位系での単位はerg/cm^2・secである。光学では放射照度 irradiance と呼ばれる。入射光・散乱光ともに、遠くの任意の場所では一方向を向いている。つまり単一の方向にだけ限定されているかあるいはその方向の周りの非常に小さい立体角の中に限定されている。本書で放射強度という単語を使う場合に意味しているのは、この立体角内の全エネルギーフラックスのことである。また同様に入射光・散乱光は単色 monochromatic である、即ち単一の周波数または狭い周波数範囲内に限定されている、と仮定する。放射強度とはこの周波数範囲内の全エネルギーフラックスのことを指す。他の単位系(MKS単位系だとW/m^2)に変換しても方程式は変わらない。例外はIが直接に電磁場で表現されている場合である。この場合と、輻射圧についての式の場合には、Iはilluminance即ち単位面積当たりのluminoux fluxを指す(単位は lumen/m^2 =lux)。

入射光も散乱光もどちらも放射強度だけで完全に特徴づけられるわけではない。それに加え、偏光 polarization 位相 phaseが必要である。位相は直接測定できないが、偏光した散乱光を正しく定式化する上で重要である。この理由から、本書のメインである第2部を通じて、散乱関数S_1(θ,φ)、S_2(θ,φ)について議論する。これらの散乱関数は散乱光の強度および位相を記述する複素数値関数である。本章では位相を考えずに放射強度を定式化する関係式を導く。位相は第3章で紹介し、第4・5章で散乱理論への応用を行う。

離れた任意の場所での散乱波は、粒子から離れていく方向へエネルギーが流れて行く球面波である。散乱の方向、つまり粒子からいま見ている地点までの方向は、入射光の進行方向とのなす角θと、天頂角φで特徴づけられる(図1)。

入射光強度をI_0、粒子から距離rだけ離れた点における散乱光強度をIとし、波数kを周囲の媒質中での波長λでk = 2π/λと定義する。するとII_0r^-2に比例していなければならないから、次のように書ける。
(めんどいので略)
ここでF(θ,φ)は次元を持たず、方向に依存するが距離rには依存しない関数である(F/k^2は面積)。また同様にこれは入射波に対する粒子の向き、及び入射光の偏光状態にも依存する。

IまたはFの相対値を、入射方向ベクトルを含むある面内で散乱角θの関数として極座標プロットすることができる。このダイアグラムをその粒子の散乱分布図 scattering diagram と呼ぶ。F(θ,φ)k^2 C_scaC_scaは後述する面積)で割ったものは位相関数 phase functionであり、方向に対するまた別の関数である。位相関数は物理的次元を持たず、全方向について積分すると1になる。