M君、娑婆に出る

専門というか対象天体は違うが、同期で研究を続けていたM君が、今月から娑婆に出ることになった。めでたく一般企業に就職というわけで、東京に移るそうな。今晩はM君の就職記念送別会である。

ここまでずっと学者稼業を目指して頑張ってきて、思うことは、『もう娑婆に出られる体じゃないよな』ということである。よく後輩にも、「博士課程に進むってことは、出家するようなもんだ」と言ったものだ。つまり、俗世で働くという気があるなら、修士を取った時点で辞めておいた方が良い、きょうび企業もドクターまで進むような『浮世離れした』ヤツを採ろうとは思わないだろうしね、という意味である。

しかしM君は出ていく。しかも、聞けば行先は一流企業だとか。

彼は修士の頃にも、就職活動をしていたことがあった。学者稼業に魅力を感じていなかったのだろう。また、ひょっとすると彼の中で、自分自身に、学者稼業を続けるだけの能力が足りない、というような思いがあったのかもしれない。

私も同感である。今、私を研究させているものは、研究そのものの楽しさよりもむしろ『学者になりたい』という思いである。もっと正確には、『教育』というものに非常に魅力を感じているので、『大学の先生になりたい』というニュアンスであるが。

研究は、つらい。研究業界の就職事情など、真っ暗だ。今の研究業界の現状を鑑みれば、普通の人間なら『魅力ある職業』とは到底思えないだろう。

少し前に彼に会ってその話を聞いたとき、彼はこういった:「オマエもまだ遅くないで」