生き方の人類学 —実践とは何か(田辺繁治)

生き方の人類学―実践とは何か (講談社現代新書)

book image

  • 著者:田辺繁治
  • 新書: 261ページ
  • 出版社: 講談社 (2003/03)
  • ISBN-10: 4061496557
  • ISBN-13: 978-4061496552
  • 発売日: 2003/03
  • オススメ度:★☆☆☆☆


ある意味、完敗である。正直に言って、何言ってるのか半分もわからなかった。
そもそもなんでそんな文章でないといけないのかわからない。なぜもっとすっきり書けないのか。その意味では、「わからなかった」というより、「わかろうと思えなかった」というべきかもしれない。このまだるっこしい文の言ってることをちゃんと理解しても、それに必要なエネルギーに見合う成果が全く期待できなかった。
「実践」が本書のキーワードである。‥‥ってもうこの時点で多くの人が読む気が失せるかもしれない(笑)。普段なら「実際にやる」というぐらいの意味に使う言葉だが、どうやらあちらの業界では「(普段の)行い」というような意味のようである。英語の practice に近いようだ。theory(理論)の反対語である。たぶん。
その「実践」がどのように行われるのか、どのような意味があるのか、を考察している。そして、いわば、「実践」とは、「生きる」ことを構成する様々な実際の行動のことと言えるかもしれないのかなと思われたのだが、おそらくその意味で「生き方の」人類学、というタイトルになっているのだろう。
例えば、「こうすべきですよ」というような「知恵」が、我々の体から離れたところに教科書のようにまとめられていて、それを学び取って我々は普段の生活をしているわけじゃない。顔を洗ったり、風呂に入ったり、というような行為には、その行為の中に「知恵」が詰まっている。そういう、行いと切り離せない知恵がある。実践とはそういうものなのだ、というような話からスタートし、そういうのは他人との関わり合いの中で伝達され共有され変質されていくのだ、みたいな展開になる。登場人物は、アリストテレスウィトゲンシュタインブルデュー、ライルとウェンガーフーコーなど。
余談だが、どうやら、人文・社会の人々と話をするためには、マックス・ウェーバーミシェル・フーコーを読まねばならないようだ、ということが最近わかってきた。
それはさておき‥‥人文・社会な学問の人々の言う「理論」とはこういうものを指しているのかもしれないが、その当否はともかく、少なくとも本書で紹介されているようなものには「理論」という言葉が相応しいとは思えない。「理屈」と呼ぶほうがしっくりくる。
そういう理屈のための理屈としか思われない話が冒頭から延々続くのであるが(正直に言うと、この本書前半の理屈パートは20分で見開き2ページほども読み進められないことも度々あった)、後半になると、それらの理屈を現実に適用するとどうなるのか、あるいは現実に起こっている/行われていることを解釈するために理屈がどのように応用されるのかを、北タイの「霊媒師とその周辺に構成される集団」と「エイズ患者の自助グループ」というものすごく特殊な集団を持ってきて考える。そんな一般性のない集団を例に挙げてどうするんだよ、と全力でツッコミを入れたいところである。
ともあれ、人文的な文章を読むための忍耐力をつける訓練と思って、頑張って最後まで読んだ。「最後まで読んだ」ということだけが、意味があったような気がする本だった。