博物館学芸員の資格

研究ではないが、博物館学芸員の資格取得に関するカリキュラムについての仕事をしている。文科省が「学芸員のための必修科目を増やすぞー!」と号令をかけたため(その内容がかなりひどいのであるが割愛)、その増加分を一体どうやって賄うのか、どこの大学も頭を痛めている。そんな関係で、某博物館(考古系)の館長のお話を伺う機会があった。実習等々で、昔からお世話になっているらしい。その館長曰く、

あなた方(大学)が、どれだけ本腰を入れて学芸員を育てようとしているか、にかかっている。滋賀県などは、県のやる気があるお陰で、博物館数の拡充のみならず、学芸員のポストも拡充されている(=予算がつけられている)。我々(某博物館)は今のままでは協力したくないが、もしあなた方が県にかけあって学芸員市場を開拓するぐらいの覚悟があってのことなら、それはつまり我々としては同業者を増やす機会なんだから、そんな増加分の授業なり実習なりはいくらでもやってやる。
某大学の博物館学芸員資格コースなんかは、学芸員を輩出するためではなく、博物館というものに理解がある「博物館サポーター」を増やすために実習をしているんだと言っているが、そんなのに協力したくない。

とのことだった。
学芸員の仕事は大変である。しかも、不況に加え、文化的価値あるいは知的な産物に対する人々の興味が薄らいでいく世の流れに流され、どんどん予算が削られ、その結果、人員が削られ、時間もお金もない中で仕事だけが増えて行く状況にある。だから、同業者をなんとしても増やしたい、というのはわかる。
だが、なんかこう、腑に落ちない。
例えば、この話の裏にある状況設定が、人文系と理科系で異なるようだ。「学芸員資格を持った人間を輩出する」=「学芸員を輩出するべき」とは理系は必ずしも考えていない。理系卒業者で、その技能を存分に活かすためという目的意識がある場合には、博物館(科学館など)も「研究施設」あるいは「科学教育施設」と認識され、研究職の1つと考えている場合が多いのである。現に俺も科学館の採用試験を「積極的に」受けたこともある(落ちたけど)
そういった非・歴史系の館に進みたい人間が大学には混じっている以上、なんかこう、専門学校のような形を求められても困るのである。しかもどうせそう簡単には採用枠は増えないのだから、むしろその某大学のようにサポーターを増やし博物館を支える社会基盤を整えるほうが、「急がば回れ」的に、結局は博物館のためになると思うのだがどうだろう。
いつも思うのだが、こうした「現場の声」というやつは、「いま」をどうにかしたい、ということしか考えていないように思える。100年後のことを考えれば、そうじゃないだろう、と思うことが多い。