兄からのお題:なぜ宇宙ステーションで人工重力を作らない?

先日、東京の兄が来たときの酒の席で、こんなお題が出た。

どうして宇宙ステーション内に重力が発生させないんだ。SFの大家が大昔にもうアイデアを出してるのに、未だにできていない。そういうことをしようという動きすら感じられない。なんでやねん。

弟が天文学者だということで周りから糾弾されるのだそうだ。気の毒にwww

ということで考えてみる。

遠心力による加速度は、半径をr[m]、回転角速度をωとすれば、rω2である。これがg=9.8[m/s2]に等しければ良いわけだ。

rω2=g

だが、これからは何の制約条件も出て来ない。そこで計算機なしでもできるような値を探してみると9.8は7x7の2/10だから、例えば回転中心から半径20cmの距離の床を毎秒7ラジアン即ち毎秒360度ちょっとで回せば良いが、これでは人間が入れないので、9.8=0.7x0.7x20としよう、すると回転半径20mの床を毎秒40度ぐらいで回転させれば良いことになる。

‥‥と、ここで終わってはいけない!

ブラックホールに人間が落ちたら?」という問答があるが、正解は「頭と足に働く重力が違い過ぎて人間がちぎれる」である。同じことがここでもおこる。頭に働く重力とつま先に働く重力が違い過ぎると宜しくない。極端な例を出せば、(現行の国際宇宙ステーションより少し細めの)直径2mの円筒が、壁面で9.8[m/s2]が出る程度にぐるぐる回転しているとすればどうか?「床」に立った人の頭は、反対側の「床」に引っ張られることになる。これでは「生活に必要な重力が作れた」とは言わんだろう。

つまり、人間が生活する程度の高低差=回転半径差の2点を考えた時、それぞれに働く重力が、ほぼ等しいと見なせなければ、そこで過ごす人間にとって「重力」とは言えないのだ。

仮に平屋のみに住むとして、例えば2mの範囲内で重力がほぼ等しくなければならない条件を考えてみる。2カ所の回転半径をそれぞれrとr+Δrとすると、生真面目に「重力がほぼ等しい」という式を書けば

(r+Δr)ω2 /rω2 ≒ 1

である。まぁ、要するに

Δr/r ≒ 0

のことである。
さて、ここで「≒0」つまり「ゼロと見なせる」の「見なせる」をどう設定するか。頭と足でどれぐらいの重力の違いが許せるものなのか、ということだが、そんなもん知らんので、自然科学でよく聞く「2ケタ違うから無視」を使うことにしよう。ひょっとすると人間は鋭敏だから3ケタとらないとダメかもしれないが、1ケタ即ち頭と足で1割違ったらおそらく不快感がでるんじゃないかなと思うので、まぁ最低ラインとして2ケタ違う(差が1%程度)というのはそんなに悪くないのではないかと思う。

ということで2ケタ違うと仮定すると、rはΔr=2[m]の100倍、即ち回転半径は200m必要になる。ちなみにこの場合の回転角速度は毎秒12.8度である。

ドーナツ型にせよ、チューブ型にせよ、直径400mの構造物を宇宙空間に浮かべるのは容易なことではない。作るのが大変というのもあるが、これだけでかいとブラックホールの話と同様、あんまり地球に近いところに浮かべようとすると地球からの引力が場所によって異なってくるだろうから、それなりに遠くないといけないから、そこまでそれだけの材料を運ぶのも大変である。しかもアムロが住んでた家みたいに2階建てや、マンションを作るなら、さらにでかくないといけないからさらに大変である。さらに植物やら池やら川やらとか言い出すと、土壌の厚さも必要で、あ、そうだ隔壁もそれなりの厚さが要るなぁ。まぁ、とにかく大変だということだ。